購入されて2年も経たないファットバイク修理のご依頼です。
ファットの名前は異様なまでに太いタイヤに由来するようです。
ほとんどオートバイの様相ですが「電動アシスト自転車」で、
「Gran Battement」と書いて「グランビート」と読むそうです。
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25kgにも及ぶ重量に、電動自転車に乗ったことがない
身には驚きです。工房内を少し移動させるだけで大変な
力仕事です。で、この弩級バイク、動かないそうです。
正確には、電動アシストが機能しない・・状態です。
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「動かなくなった」と言われても
正直途方に暮れてしまいます。
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それでも物珍しさにそそのかされ
各部の観察を始めてしまいます。
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ペダルからチェーンリング、チェーンを介して
後輪スプロケットに踏力が伝達されます。
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カセットスプロケットは5段の変速
ギヤとディレーラーが備わります。
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異様なタイヤの太さを除けば
普通の自転車の造りですが、
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ボトムシェルのあたりから
何やらケーブルが出ています。
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前輪ハブ部分に取り付けられているのはディスクブレーキです。
よほど大きなアシストが加わるようで、ブレーキも強力な仕様です。
そして、ディスクの奥に見えるのが前輪を電動アシストするモーター
のようです。ハブ端から電力を送るケーブルが接続されています。
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ハンドル周りを確認します。左側に電源スイッチを
含む操作ボタン、右側にLCDディスプレイがあります。
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システムに電源が入り、ディスプレイに
表示が出ます、が電動アシストはダメです。
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もう少し各部の確認を進めます。トップ
チューブが途中で分割されています。 |
ロックレバーを解除すると
そこから前後に分離します。
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前後のトップチューブ端にフランジ部があり、
車体左側の蝶番により大きく折れ曲がります。
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前後が完全に180度回転して車体長が2分
の1となります。折り畳み自転車でもあります。
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トップチューブにはアルミ合金製のチャンネル材が使用され
内部は空洞です。その車体前方側内部にバッテリーが収め
られています。ワイヤフックを引くと取り出すことができます。
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各部の構造がいくらか分かりかけてきましたが、バイクが正常に
動作する状態だとしても全体の理解には遠く及びません。まして
故障してアシストできない状態に対して、どこから手を付けたら
良いのか見当すら思い浮かびません。唯一、ご依頼主が製品
仕様のコピーを用意して下さっています。ですが、ご覧の通り
とても修理の役に立つ内容ではありません・・困り果てます。
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メンテナンス用資料もなく、製造時の設計図や
組立図もヒントもなく、完全に手探り状態です。
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途方もない時間がかかりそうですが、各部をできる限り
分解して構造・構成の理解に努めるしかありません。
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車体後方側のチューブ端にバッテリーを受ける端子が
あり、それを取り外すと中に配線が収められています。
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配線と一緒に何やら訳が分からないモジュールが出て
きます。JCP-2と表記がありますが機能は不明です。
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さらに奥に金属製ケースに収められたモジュールが収められています。
手前側面からコードの束が出ており、複雑(面倒)な装置であろうことがを
予感させます。修理をお断りするなら今のうち・・?、思いがよぎります。
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引き出してみると長辺10cm弱のアルミ製ボックスで、
内部のパワーデバイスの放熱器も兼ねているようです。
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表面に「JC PAS」、「CONTROLLER」の表記が
あり、先ほどのモジュールと同じメーカーです。
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チューブ内の空洞に夥しい配線が収められています。
全て引き出して、相互の接続関係を調べて行きます。
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CONTROLLERを中心に、バッテリーや
先ほどのモジュールからの配線がつながり、
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逆にCONTROLLERからハンドルスイッチや
LCDディスプレイへの配線が出て行きます。
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ケーブルを切り離すと、電源が切れて
当然ディスプレイは表示されなくなります。
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当り前過ぎることもひとつずつ確かめていくしか
ありません。続いてハブモーター周りを見ます。
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樹脂製保護キャップを外すと
ハブ固定ナットが出てきます。
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スパナでナットを緩めます。前輪のシャフトは
中空構造で、中を電力ケーブルが通ります。
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ハブモーターのアウターが回転し、シャフト
自体は固定されて回転しないようです。
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反対側のハブを固定しているナットも緩めます。これだけの
構造・重量を支えるには少々強度不足のように思います。
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ナットが緩むとハブがガタついてきます。
構造は普通の自転車並みです。
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前輪が無事に分離します、ブレーキユニットも脱着の必要はありません。
20インチの極太タイヤ、中心部に強力そうなアシスト用ハブモーター、
車体左側に放熱用スリットの入ったブレーキディスクが付いています。
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チェーンホイール周りの構造確認に進み
ます。クランクを固定するボルトを緩めます。
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クランク、チェーンホイール周りの分解は
単純そうに見えて実は意外と面倒です。
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コッタレスクランクなので、専用工具が
必要です。急遽Amazonで調達します。
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コッタレスクランク抜きをクランク
中心のネジ穴にセットします。
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クランク抜きの先端が奥のシャフトに
当たった状態で、補助ナットを締め込みます。
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クランクアーム単体では脱着できず、
チェーンホイールも一緒に外れてきます。
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チェーンホイールの内側を確認すると、CONTROLLER
からの配線の一部がホイール内に引き込まれています。
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樹脂製のカバーが嵌め込まれていますが、
周囲をこじることで何とか開けられそうです。
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クランク回転を検知するセンサーのようです。スプリングが組み
込まれているのでトルク(踏力)を検出するのかも知れません。
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車体前方に延びる配線は、トップチューブ
下面にホルダで固定されています。
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電気系配線を一度全て外すため
ホルダを取り除きます。
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ハンドル周りに延びる配線です。
ケーブルの全貌が見えてきました。
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操作スイッチ、LCD
ディスプレイを外します。
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ディスプレイを固定している
ホルダごと取り外します。
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故障個所どころかまだ各部の機能が分からない
状態です。手探りで解明する必要があります。
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ここまで分解してきて、各部の組み立て構造や電気系の接続関係が
ほぼ理解できています。ですが、各部の機能、特に電気系の機能
分担・配置は全く分かっていません。全体が正常に動作しているなら、
まだ解析の余地もあるでしょうけれど、現実は故障状態。何が分から
ないのかが分からない状況で、まるで手の出しようがありません。
続電動アシスト自転車(ファットバイク)修理へ
続々電動アシスト自転車(ファットバイク)修理へ
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さて、ファットバイク、GranBattementは既に販売が終って
おり、検索の末ようやく製品紹介の名残を見つけました。
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製品に同梱される取扱説明書もありました。
ご依頼主提供のシートはこの中の一部です。
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正確には販売は終了したのではなく、その
違法性が指摘され中止に追い込まれています。
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消費者庁国民生活センターが、道交法の基準に適合
しない経緯を詳細に説明し、注意を喚起しています。
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JAF(日本自動車連盟)も、製品の違法性や
利用上のリスクをWEB記事で取り上げています。
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道交法所管の警察庁は、京都府警がファットバイクの
販売者を検挙したことを広報資料として公開しています。
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販売店(京の洛スク)の運営会社(株式会社THE NeO)は、その後
1億5000万円の負債を抱え、昨年6月に倒産に至っています。問題は、
このような違法性のある製品を、果たして修理など引き受けてよろしいか
ということです。修理自体も違法とならないか、慎重な判断が必要です。
詳細は略しますが、道交法が定義する道路上で使用した場合に、摘発
されるのはその運転者自身です。間接的に運転者の違法行為を手助け
することになるかも知れませんが、公道を違法走行する原因を修理業者に
結びつけることは無理があり極端です。依頼者が公道を走るかどうかは
分かりませんし関与できることではありません。道交法に抵触する理由は
運転者の踏力に対するモータのアシスト比(1:2まで)だそうです。時速
24kmの時点でアシスト力がゼロになる必要があり、それを超過すると
原動機付き自転車と見なされます。しかし、現時点での想像ですが、
パワーデバイスによりモーターを制御しているので、多分アシスト比や
速度はコントローラの設定次第なのではないでしょうか。補助パワーや
速度が出るポテンシャルがあるだけで、厳しく取り締まれるのか疑問に
思います。だとすれば、最高時速が250kmも出るスーパーカーは
一般道路をとても走れません。修理作業を先に進めるべきか悩みます。
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