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続電動アシスト自転車(ファットバイク)修理(2024.10.12)

 
製品を販売した法人とその代表取締役が検挙されたのは、道路交通法が
規定する原動機付自転車を駆動補助機付自転車(電動アシスト自転車)と
称して販売し、不正競争防止法に違反したためです。もちろん違法な電動
アシスト自転車で公道上を走行すると、警官による取り締まりの対象となり
ます。検挙されないためには、原動機付自転車として車両検査・認定を
受けている必要があり、運転者は運転免許を所有しなければなりません。
逆に、公道上で乗車・運転しない限り、サーキットや私有地内で利用する
のであれば違法ではありません。まして製品を所有すること自体に問題が
あるわけではありません。ご依頼者に再三確認・了解いただいた上で、
修理を続行することにします。守谷工房は修理を通して一連の違法行為を
認めたり助長する意図は決してありません。ネット上には同製品を楽しく
乗り回す動画が多く見受けられますが、例に違わず電動アシスト自転車の
メカニズムはブラックボックス状態です。法的問題の有無もさることながら
構造や性能に関し十分な技術的理解も踏まえるべきではないでしょうか。

 

ディスプレイに電源は入るものの、肝心の電動アシストが機能しない。
いったいシステムのどこに不具合があるのか見当も付きません。ここ
まで各部を分解・調査してきたものの、バッテーリーが寿命なのか、
モーターが故障しているのか、コントローラの不具合なのか、アシスト
センサーの動作不良か、単にどこかで配線が切れたり接触不良でも
あるのか・・。そもそも各デバイスの働き・役割が分かっていません。
こうなる上は、取り出した各デバイスをひとつずつ調べていくしかあり
ません。はじめに、アシストセンサー(多分)につながるこの小さな
ボックス。「JCP-2」の型番名と「Victory Sincerity Co.Ltd.」の
製造会社名があり、本体から3組のケーブルが取り出されています。

 

JCP-2では検索結果が得られず、Victory Sincerity
Co.Ltd.で会社のWEB(表示不良)が見つかりました。

 

リンクを探っていくと製品紹介のページがあり、
電動アシスト自転車関係の部品が出てきます。
 

センサー、コントローラなどの製品が並び、JCP-2の製品
型番があります。WEB不具合のため詳細を閲覧できません。

 

代わりに同製品の販売店のWEBで確認します。
アシストセンサーとセットになったI/Fのようです。
 

電源が入るディスプレイ、本体左上に「S700」の刻印が
あります。「LCD-S700」で資料が見つかりました。

 

LCD-S700のユーザーズマニュアルです。
29ページにわたり機能が詳術されています。
 

コントロールボックスを介してアシストモーターを制御する
機能が詰め込まれています。例えば走行速度の上限を
設定でき、自転車として安全な速度を保つことができます。

 

指摘された違法性のひとつがアシスト比です。ところが
メイン画面の中にアシストストール、つまりアシストの
上限を設定(制限)する機能が組み込まれています。
 

S700は単なるディスプレイではなく、サイクルコンピュータの
ような頭脳と言えるでしょう。そして速度やアシスト比を任意に
調整することが可能で、法令の許容範囲を超えないよう設定
する機能を元々持っているわけです。それでも違法でしょうか。
次にトップチューブ内に収められていたコントロールボックスを
調べます。分解したところ、内部にはパワーFETを利用した
電力制御回路が組み込まれています。やはり「JC PAS」や
「DT793-KH001C」では検索結果が得られませんが、
モーターの制御装置そのものであることは間違いありません。
 

製品の仕様こそ見つかりませんが、海外のネット
ショップには似たような製品がいくらでもあります。

 

ネットショップの情報を手掛かりに調べていくと、こちらの
サイトに電動自転車歯車トルクセンサーの商品があります。
 

ペダル付チェーンホイール、アシストセンサーI/F、
操作スイッチ、そしてコントローラのセットです。

 

写真のコントローラ部分を拡大してみると
「DT793-KH010?」とほぼ同じです。
 

もしやと思いアマゾンを調べると同様製品が山ほど出てきます。
モーターをセットにして後付け電動化を謳うものもあります。

 

詳しい説明がない点が不思議なくらい共通していますが、
アシストセンサーも付属する1台を失敗覚悟で注文します

 

アマゾンは中国の通販店をリダイレクトしているだけ
なので、海外の通販サイトと商品がほとんど同じです。
 

コントローラ、ディスプレイ、アシストセンサー、ハンドル
スイッチのセットで、電源電圧24~36Vに対応します。
 

付属する唯一の技術資料です。コントローラから出る20数本の
配線について説明があります。接続先はその名称から何本かは
明らか、使用しないので除外できるものもあり、最終的に解析の
必要があるのは数本だけです。何とかなるだろうと判断します。
 

コントローラは24Vにも対応、350Wの容量が
あるので、現在のモーター250Wに対し十分です。

 

元のアシストセンサーも交換します。クランク・チェーン
ホイールの構造に適合しやすいものを選択します。
 

ディスプレイ(≒サイクルコンピュータ)には簡単な
取扱説明書が付いており、S700に酷似しています。

 

ハンドルスイッチは前後に動くレバーのみです。
+・-と電源ボタンはディスプレイに移動しています。
 

製品に付属する取扱説明書です。1ページ目、ディス
プレイ(S866)の表示項目が説明されています。

 

2ページ目は主要メニューと
エラーコードの解説です。
 

+ボタンと-ボタンを同時に押すとパラメータの
設定画面に入ります。各項目の説明が続きます。

 

この中で、例えば最高速度やアシスト比を
設定できます。S700とほぼ同じです。
 

先にアシストユニットを購入してしまいましたが、前輪に組み
込まれたホイールモーターが故障している可能性もあります。
 

ホイールモーターは3極ブラシレスDCモーターの
独壇場で、通電してトルクが生じるか確認します。
 

取り外した前輪をバイスで工作台に固定します。
危なっかしいですが通電確認できればOKです。
 

ハブ端から出たケーブルが
途中コネクタで中継されます。
 

コントローラに接続されるケーブル端です。
3本の太い電力線と5本の信号線があります。
 

コネクタを抜いてみると9ピンで、
計9本の配線本数と一致します。
 

モーターが故障していたのでは元の木阿弥、修理
中止です。元のバッテリーから電力を取ります。
 

バッテリーのDC24Vにクリップ線を
接続し、念のため絶縁保護しておきます。
 

-側のクリップをモーターのデルタ結線されて
いる配線3本のうち、まず1本に接続します。
 

残り2本のうちどちらかに+側の
クリップを一瞬だけ接触させます。
 

いきなり接続してしまうのは、モーター内部の故障や配線間違い
などにより大きな事故を招きかねません・・。が、接触させた瞬間
前輪が「カクッ」と回りかけます。生きています、少なくとも1極は。

 

別の配線に変更します。3通りの接続について
さらに+・-を逆接続し、計6通りを点検します。

 

6通りの全てでホイールモーターが反応します。
最大の懸念であるモーターの故障は潰れます。

 

モーターに電力を送り込むことに問題はないので
コントローラのモーター接続線につなぎます。

 

接続の仕方により回転方向が逆になることがあります。
ですが任意の2本を入れ替えるだけで変更できます。
 

ディスプレイも接続します。同梱製品
なので、コネクタは当然一致します。

 

ハンドルスイッチ(レバー)も接続します。交換前と
仕様が異なりレバーがスロットルとして機能します。
 

コントローラの電源コードにはXT60コネクタが
付いています。取りあえずクリップで電源を接続します。

 

念のためバッテリーの電圧を確認
してからクリップコードをつなぎます。
 

ロクな技術資料もなく手掛かりもない状態で作業を
強いられ、既製の製品とはいえ電源投入が心配です。

 

電源ボタンを押すと、バックライトが点灯し
コントローラが無事に起動しました。

 

次にハンドルスイッチのスロットル
レバーを恐る恐る押してみます。

 

前輪が勢いよく回転します。レバーの押し下げ
量に応じて回転速度が滑らかに変化します。
 

モーター、バッテリー、コントローラの動作が確認できた
ところで、モーター内のホール素子へコードをつなぎます。

 

モーターからの配線はコネクタ形状が合わない
ので、信号線6本をコネクタから抜いておきます。

 

センサーにホール素子が使われているはずなので
2本が電源、残りは4極分の配線と考えられます。

 

ところが各配線の接続関係が全く分かりません。
配線間の抵抗を測定し割り出すしかありません。

 

配線2本の組み合わせ全てについて、テスト棒
(+-極性)を反転させて2回ずつ測定します。

 

その結果を一覧表にまとめます。抵抗値から
赤と黒が電源、その他4本はセンサーです。

 

センサーの並び順は前輪を回すことで調べられるでしょう。
しかしコントローラ側と配色が同じなのでそれに従います。

 

モーター側もコントローラ側も赤・黒・青・黄・緑・白で
一致しています。モレックス様のコネクタにセットします。
 

センサーの接続関係が間違っていたら
ピンを抜いて繰り返し差し替えるだけです。
 

アシストセンサーを除き、必要な
配線を全て接続した状態です。
 

スロットルレバーを操作すると、最初のテストと
同様に前輪が勢い良くかつ円滑に回転します。
 

異なる点は、ディスプレイに走行速度が表示されています。
ホール素子からの信号が検出されている結果です。検出に
より、走行距離や走行時間など様々な情報が処理できます。
4色4本のセンサー配線は間違えていなかったようです(^^)。

 

ディスプレイをハンドルに固定します。
元の縦型が横型に変更となります。

 

ハンドルスイッチ(スロットルレバー)も固定
します。操作しやすい位置に調整します。
 

前輪をフロントフォークに戻し、少し持ち上げた
状態でスロットルレバーを操作してみます。

 

レバーを押し下げると前輪の回転速度が
増加します。離すと自力で元に戻ります。
 

残るはアシストセンサーをクランク・チェーンホイールに取り付ける
作業です。現時点でアシストセンサーなしで動作していることから、
元の故障はアシストセンサー以外だと考えられます。モーターが
回転し元のディスプレイも起動はしていたので、ほぼコントローラの
故障が疑われます。パワーFETが飛んでいる可能性が大です。

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