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ネットワークで配信される音楽をデジタルデバイスで楽しむ時代です。
遡ること50年以上前、トランジスタによる増幅回路が普及し、ソリッド
ステート化が完了する頃、日本の家庭では高級化する「ステレオ」が
次々と買い込まれていきました。かつてない高音質、いわゆるHiFi
(High Fidelity・・WiFiではありません)の一般化が進みますが、
「ステレオ」という名称は単に「STEREO」が意味する立体音響、
つまり音楽ソースを左右2チャンネルで構成し、2個のスピーカーを
使用する意味でしかありません。現在の「コンポ」の元祖でしょうか。
ステレオの復活 いわき市へ2
ステレオの復活 いわき市へ3
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「ステレオ」の主な音楽ソースはLPやSPなどの
レコードで、再生にはレコードプレーヤが必須でした。
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「ステレオ」に組み込まれているレコードプレーヤに
不具合があるそうで、福島県のいわき市まで出向きます。
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久之浜の北にある末続という小さな町までやって
来ました。かつて津波に見舞われた地域です。
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若いご夫婦が営まれる「すえつぎCAFE」です。
ガレージを改装された店舗で素敵な外観です。
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キッチンカーを所有され、イベントなどで
移動販売にも忙しくされているそうです。
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都会の喧騒を離れ、店内は本当に
静かで落ち着いた雰囲気です。
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カフェ店内の奥まったところに「ステレオ」が設置
されています。木製キャビネットが当時のままです。
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センターキャビネットを中心に大型
スピーカーボックスが左右に並びます。
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その反対側、入り口の両脇にも小型の
スピーカーボックスが置かれています。
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このステレオは、当時流行
した4チャンネル方式です。
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センターキャビネットの上蓋を開けると、精巧に作り込まれた
レコードプレーヤが現れます。スピーカーボックスともに、その
外装は見事なまでの木材製です。合板に木目シートを貼って
化粧していますが、そのシートは天然木の突板のようです。
木工職人による本格的な加工が必要で、電気製品である
オーディオ装置と言えどもほとんど高級家具の様相です。
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製品型番を確認すると、F-800、かつての
代表的ステレオメーカー、パイオニア製です。
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手前のパネルカバーを開くとレシーバーが現れます。
カバーを閉じれば既存の家具と同化するデザインです。
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木材質の内部では、逆にテクニカルなメタリック
パネルが輝きます。深い記憶が蘇ってきます。
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自宅にも、近所の友人宅にも、この
ステレオが置かれていました。さて、
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レコードプレーヤつまりターンテーブルの
不具合は、再生音(周波数)が低くなることです。
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予めお聞きしていましたが、西日本地域で購入された
ものなので、電源周波数60Hz仕様の製品です。
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ご依頼主のお祖母様がご子息(お父様)のために購入された
そうです。その後長く保管されていたものを、カフェで活用しようと
はるばる運んで来られました。当時のターンテーブルは決まって
同期モーターとベルトドライブで駆動され、33/45回転の切り
替えも含めてキャプスタン軸の直径が回転数を決めていました。
電源周波数60Hz用のキャプスタンを50Hzの東日本地域で使用
すると、回転数が単純に6分の5に減少します。当時は50Hz用と
60Hz用のキャプスタンがパイオニアから販売されていたでしょう。
同社が消滅してしまった現在、同等品を再生するしかありません。
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もう一つ不具合があり、スピーカーの
片方から音が出ていないそうです。
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センターキャビネットを引きずり出す際、背面の製品
タグを見つけました。定格周波数は60Hzとすべきでは?
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センターキャビネット背面のレシーバー収納部分、
背面パネルは懐かしいパーチクルボード製です。
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背面パネルを外すとレシーバーの
金属製シャシーが見えます。
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キャビネット前面に戻り、下部開口部から手を入れ
天井面でレシーバーを固定しているネジを緩めます。
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レシーバーをシャシーごと
キャビネット後方に引き出します。
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チューナーや他のソースを楽しんでもらうため、音が
片方出ない不具合だけでも解決したいものです。
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パイオニアの黄金期を思わせる見事な実装です。
眺めていて飽きません・・が、そんなヒマはありません。
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キャビネット下部開口部の中に、何と当時の
取扱説明書がそっくり残されています。
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説明書のセットの中には、素晴らしいことに
ブロックダイアグラムが含まれています。
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そして、上質の厚紙に印刷されたレシーバーの全回路図です。
現在ではあり得ない話ですが、当時の電気製品にはこのような
全回路図が当たり前のように付属していました、感動ものです。
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片チャンネルの音が出ない不具合も、回路図があれば
原因究明が容易になります。実際、一発で見つかります。
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出力段の保護ヒューズが飛んでいます。交換用
ヒューズがないので応急措置で短絡します。
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あっけなく音が片方出ない不具合は解決です。
次回訪問時にヒューズを用意し交換します。
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レコードプレーヤの修理に戻ります。ターンテーブル
ごとお預かりするので、キャビネットから取り出します。
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電源さえ接続すれば、ターンテーブル
単体で動作せることができます。
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修理方法は分かり切っています。
50Hz用のキャプスタンを用意します。
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取り外して詳細に確認すると、ベルトの駆動面が上下2段に分かれ
上側が33回転用、下側が45回転用です。駆動面は中央部が少し
膨らんだ形状で、ベルトが駆動面中央を自律的に走行するための
工夫だと思います。直径を6分の5に変更した同じ部品を製作する
必要があり、レース盤(旋盤)が必須ですのでいったん工房に戻り
作業します。材質は真鍮材なので、削りやすく難しくはありません。
ステレオの復活 いわき市へ2
ステレオの復活 いわき市へ3
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