守谷工房のリペア5へ                守谷工房Topへ

ステレオの復活 いわき市へ1(2024.4.29)


ネットワークで配信される音楽をデジタルデバイスで楽しむ時代です。
遡ること50年以上前、トランジスタによる増幅回路が普及し、ソリッド
ステート化が完了する頃、日本の家庭では高級化する「ステレオ」が
次々と買い込まれていきました。かつてない高音質、いわゆるHiFi
High Fidelity・・WiFiではありません)の一般化が進みますが、
「ステレオ」という名称は単に「STEREO」が意味する立体音響、
つまり音楽ソースを左右2チャンネルで構成し、2個のスピーカーを
使用する意味でしかありません。現在の「コンポ」の元祖でしょうか。

ステレオの復活 いわき市へ2

ステレオの復活 いわき市へ3

 

「ステレオ」の主な音楽ソースはLPやSPなどの
レコードで、再生にはレコードプレーヤが必須でした。

 

「ステレオ」に組み込まれているレコードプレーヤに
不具合があるそうで、福島県のいわき市まで出向きます。
 

久之浜の北にある末続という小さな町までやって
来ました。かつて津波に見舞われた地域です。

 

若いご夫婦が営まれる「すえつぎCAFE」です。
ガレージを改装された店舗で素敵な外観です。
 

キッチンカーを所有され、イベントなどで
移動販売にも忙しくされているそうです。

 

都会の喧騒を離れ、店内は本当に
静かで落ち着いた雰囲気です。
 

カフェ店内の奥まったところに「ステレオ」が設置
されています。木製キャビネットが当時のままです。
 

センターキャビネットを中心に大型
スピーカーボックスが左右に並びます。
 

その反対側、入り口の両脇にも小型の
スピーカーボックスが置かれています。
 

このステレオは、当時流行
した4チャンネル方式です。
 

センターキャビネットの上蓋を開けると、精巧に作り込まれた
レコードプレーヤが現れます。スピーカーボックスともに、その
外装は見事なまでの木材製です。合板に木目シートを貼って
化粧していますが、そのシートは天然木の突板のようです。
木工職人による本格的な加工が必要で、電気製品である
オーディオ装置と言えどもほとんど高級家具の様相です。
 

製品型番を確認すると、F-800、かつての
代表的ステレオメーカー、パイオニア製です。
 

手前のパネルカバーを開くとレシーバーが現れます。
カバーを閉じれば既存の家具と同化するデザインです。
 

木材質の内部では、逆にテクニカルなメタリック
パネルが輝きます。深い記憶が蘇ってきます。
 

自宅にも、近所の友人宅にも、この
ステレオが置かれていました。さて、
 

レコードプレーヤつまりターンテーブルの
不具合は、再生音(周波数)が低くなることです。
 

予めお聞きしていましたが、西日本地域で購入された
ものなので、電源周波数60Hz仕様の製品です。
 

ご依頼主のお祖母様がご子息(お父様)のために購入された
そうです。その後長く保管されていたものを、カフェで活用しようと
はるばる運んで来られました。当時のターンテーブルは決まって
同期モーターとベルトドライブで駆動され、33/45回転の切り
替えも含めてキャプスタン軸の直径が回転数を決めていました。
電源周波数60Hz用のキャプスタンを50Hzの東日本地域で使用
すると、回転数が単純に6分の5に減少します。当時は50Hz用と
60Hz用のキャプスタンがパイオニアから販売されていたでしょう。
同社が消滅してしまった現在、同等品を再生するしかありません。
 

もう一つ不具合があり、スピーカーの
片方から音が出ていないそうです。
 

センターキャビネットを引きずり出す際、背面の製品
タグを見つけました。定格周波数は60Hzとすべきでは?
 

センターキャビネット背面のレシーバー収納部分、
背面パネルは懐かしいパーチクルボード製です。
 

背面パネルを外すとレシーバーの
金属製シャシーが見えます。
 

キャビネット前面に戻り、下部開口部から手を入れ
天井面でレシーバーを固定しているネジを緩めます。
 

レシーバーをシャシーごと
キャビネット後方に引き出します。
 

チューナーや他のソースを楽しんでもらうため、音が
片方出ない不具合だけでも解決したいものです。

 

パイオニアの黄金期を思わせる見事な実装です。
眺めていて飽きません・・が、そんなヒマはありません。
 

キャビネット下部開口部の中に、何と当時の
取扱説明書がそっくり残されています。

 

説明書のセットの中には、素晴らしいことに
ブロックダイアグラムが含まれています。
 

そして、上質の厚紙に印刷されたレシーバーの全回路図です。
現在ではあり得ない話ですが、当時の電気製品にはこのような
全回路図が当たり前のように付属していました、感動ものです。

 

片チャンネルの音が出ない不具合も、回路図があれば
原因究明が容易になります。実際、一発で見つかります。

 

出力段の保護ヒューズが飛んでいます。交換用
ヒューズがないので応急措置で短絡します。
 

あっけなく音が片方出ない不具合は解決です。
次回訪問時にヒューズを用意し交換します。
 

レコードプレーヤの修理に戻ります。ターンテーブル
ごとお預かりするので、キャビネットから取り出します。
 

電源さえ接続すれば、ターンテーブル
単体で動作せることができます。

 

修理方法は分かり切っています。
50Hz用のキャプスタンを用意します。
 

取り外して詳細に確認すると、ベルトの駆動面が上下2段に分かれ
上側が33回転用、下側が45回転用です。駆動面は中央部が少し
膨らんだ形状で、ベルトが駆動面中央を自律的に走行するための
工夫だと思います。直径を6分の5に変更した同じ部品を製作する
必要があり、レース盤(旋盤)が必須ですのでいったん工房に戻り
作業します。材質は真鍮材なので、削りやすく難しくはありません。

ステレオの復活 いわき市へ2

ステレオの復活 いわき市へ3


 
守谷工房のリペア5へ                守谷工房Topへ