守谷工房のリペア5へ                守谷工房Topへ

ステレオの復活 いわき市へ2(2024.5.8)


かつての「ステレオ」、組み込まれているレコードプレーヤーの
回転数が遅く、レコードが正しく再生されません。西日本地域の
電源周波数60Hz用キャプスタンがそのままだからです。同期
モーターが使われる限り、東日本地域の50Hzでは回転数が
6分の5に変化します。レコードプレーヤー部をそっくり取り外し
工房に持ち帰って50Hz用のキャプスタンを製作します。

ステレオの復活 いわき市へ1

ステレオの復活 いわき市へ3


 

10mm径の真鍮棒です。工房にストックが
ないものの、Amazon手配で翌日到着です。

 

レース盤があればキャプスタン
製作はさほど難しくありません。
 

工房の非力な卓上旋盤でも
真鍮材なら容易に切削できます。

 

安定した回転を得るには、真円に
近い切削をする必要があります。
 

ドリルチャックにセンタードリルを
取り付け、中心位置に穴を開けます。

 

心押しにより切削中
材料を安定させます。
 

ドリルチャックをレースセンター
(回転センター)に付け替えます。
 

心押し軸を移動させ回転センターの
先端を材料の中心(穴)に入れます。
 

目的とするキャプスタンの形状をCAD上に描きます。
ベルトが掛かる部分の径以外は元の寸法通りにします。
 

33.3回転ベルト駆動部分の
外径を測ります、3.42mmです。
 

45回転ベルト駆動部分の外径を
測ります、4.68~4.69mmです。
 

測定した各段の外径を
CADに反映します。
 

高さ方向の寸法も測定し
CADに入力します。
 

ターンテーブルの外径は300mmと大型ですが、
ベルトが掛かる部分はちょうど200mmです。
 

 
キャプスタン径と回転数の関係を計算してみます。
当時広く使われていた同期モーターの回転数は、

N=120f/P (r/min)

f : 電源周波数(Hz)
P : モーター極数(4)

により計算できます。西日本の電源周波数は
60Hz、一般的な同期モーターは4極なので、


N=120・60/4=1800(r/min)


ターンテーブルの直径は実測値で200mm、
33.3回転用キャプスタンの径
3.42mm、

N(33)=1800・3.42/200=30.78(r/min)

45回転用キャプスタンの径4.69mm、

N(45)=1800・4.69/200=42.21(r/min)

33.3回転、45回転ともやや遅いようですが、
キャプスタン径を測定する際に誤差を伴った
可能性もあります。電源周波数が50Hzの
東日本地域で同じモーターを回転させると、


N=120・50/4=1500(r/min)

ちょうど6分の5の回転数に低下します。
キャプスタンを変更することなくそのまま
ターンテーブルを回転させると、

N(33)=1500・3.42/200=25.65(r/min)

N(45)=1500・4.69/200=35.18(r/min)

これではとても聴けたものではありません。
33.3回転のLPレコードを45回転で再生
して、音程が少し高く聴こえるくらいです。
 


次に、電源周波数50Hzの東日本で、本来の
回転数を得るためのキャプスタン径を求めます。
ターンテーブルの径と回転数比から計算すると、


1500・D(33)/200=33.3(r/min)

1500・D(45)/200=45.0(r/min)

D(33) : 33.3回転用キャプスタンの径
D(45) : 45.0回転用キャプスタンの径

D(33)=33.3・200/1500=4.44(mm)

D(45)=45.0・200/1500=6.00(mm)

33.3回転用、45回転用いずれも2割弱
ほど太くなります。新しく削り出す寸法決定です。
 



新しく削り出す50Hz用キャプスタンの外径を
CADに反映します。レース盤の精度、ノギスの
測定精度からして、100分の1精度での加工は
到底無理です。10分の1での加工を目指します。
 

一度取り付けた回転センターを取り
外し4.75mmのドリルに交換します。
 

先にモーターシャフトが入る穴を
深さ11mmで開けておきます。
 

ノギスを入れて穴の
深さを確認します。
 

穴を開けた端面を
綺麗に整えます。
 

ベルトが掛からない下部の
高さは12mmになります。

 

端から12mmの位置に
ケガキを入れます。
 

33.3回転、45回転でベルトが
掛かる範囲もケガいておきます。

 

回転センターを元に戻し、45回転でベルトが
掛かる下端位置から切削を開始します。
 

突っ切りバイトで12mm+αの
位置に切り込みを入れます。

 

無理のない深さ(1.5mm
ほど)まで切り込みます。

 

そのまま横方向に送ります。材質が
柔らかい真鍮なのでサクサク削れます。

 

33.3回転ベルトが掛かる
上端まで同じ径で削り上げます。
 

最初の位置に戻り、+α残した
部分をケガキ線位置に仕上げます。
 

古いマイクロメーターがあることを
思い出し、径の測定に使用します。
 

シャフト径は本来マイクロメーターで測定するもの・・でしたっけ。
シンブルの操作により100分の1mmの精度で測定できます。

 

33.3回転ベルトが掛かる
下端位置にバイトを移動します。
 

さらに1mmほど
切り込みます。

 

そのまま横方向に送り33.3回転
ベルトが掛かる部分を削り出します。
 

ここからはベルトが掛かる部分を少し
削り込んでは径の測定を繰り返します。

 

33.3回転、45回転とも径を
できるだけ目標値に近付けます。
 

ベルトが掛かる部分が仕上がったので
キャプスタンのキャップ部分を切削します。

 

最後にキャプスタン上端を切り離し
ます。全高は27.5mmになります。
 

切り離れました・・が、上端に
切り残しの突起が出ています。

 

レース盤に逆向きに固定し
突起を取り除きます。
 

レース盤の精度、振動、バイトの切れ味などが総合し、
決して美しい仕上がりではありません。ですが、何とか
ターンテーブルを定回転させられそうではあります。

 

ベルトドライブの構造からして、仕上げが
多少雑でも回転の安定性には影響しません。

 

元のキャプスタンは、ベルトが掛かる面に
中ほどを膨らませる加工を施しています。
 

ベルトの上下動を押さえるためでしょう。次に、
モーターシャフトを固定するネジ穴を加工します。

 

キャプスタン下部の途中に
横方向から2mmの穴を開けます。
 

2mmのタップを用意します。
久しぶりのネジ穴加工です。

 

できるだけ垂直にネジが切れるよう
持ち方を変えながらタップを回します。
 

真鍮材なのでやはり加工は容易です。
ネジ溝が綺麗に切られています。

 

M2ビスがすんなり入ります。頭のない
留めネジを使いたいところですが、
 

レコードプレーヤー本体のモーターシャフトに取り付けます。
シャフト横の金具は、ベルトを33.3/45回転の位置に移動
させるアームです。アームが上下する高さに、キャプスタンの
33.3/45回転面が一致するよう固定位置を調整します。

 

プレーヤー本体に加工されている溝が
ドライバーを差し込む際に好都合です。

 

ベルトを掛けターンテーブルをセット
すると、必要な作業は一応完了です。
 

ターンテーブルを回転させ、実際に回転に
要する時間をストップウォッチで測ります。

 

まず45回転ですが、計測結果は
54秒とかなり速く回転しています。
 

次に33.3(≒33)回転に切り替え、
実際に回転に要する時間を測ります。

 

こちらも52秒とかなり速く回転しています。
10~15%回転数が高い計算です。
 

 
何故こうも回転数が高くなるのか、原因が
よく分かりません
。モーターの回転数が
高かったり気まぐれにに変化するはずは
ないので、回転数比から計算で割り出した
キャプスタン径では大きいということです。

元の60Hz用キャプスタン径の実測値を
正確なものとして、つまり33.3回転用が
3.42mm、45回転用が4.69mmで
それぞれ正確な回転数を得ていたとして、
電源周波数(モーター回転数)の変化から
単純に新しいキャプスタン径を求めます。

D(33)=3.42・1800/1500=4.1(mm)

D(45)=4.69・1800/1500=5.6(mm)

33.3回転用を4.44mmから4.1mmへ、
45回転用を6.0mmから5.6mmに変更します。

 



キャプスタンをもう少し切削して細くします。
ただし、センターレースが使用できません。

 


レース盤の送りハンドルを何分の1かずつ微妙に回転
させますが、0.1mmの精度もなかなか保てません。
 

基準ゲージで調べたところ、マイクロメーターよりもノギスの
方が精度が高く変更します。45回転用のシャフトに移ります。

 

5.6mmのところ5.61mm、
こちらは設計通りに仕上がっています。
 

再び回転に要する時間を計測します。
45回転側が58.5秒、まだわずかに速い。

 

少し削り過ぎてしまった33.3(≒33)回転側は
59秒、ほぼ正確・完成と言っていいでしょう。
 

設計通りの径に切削できた45回転側がまだ速い、つまり径が
太いことになります。駆動側と従動側の回転数比から単純に
プーリー径を割り出しても、正確な回転数は得られないことが
分かります。駆動ベルトは0.5mmほどの厚みがあり、もしか
するとベルト厚がプーリー径を大きくしているのかも知れません。
特に径の小さいキャプスタン側でその影響は顕著でしょう。
しかし、キャプスタン外周の角速度が駆動ベルトによりそのまま
ターンテーブル側に伝達されていると考えれば、ベルトの厚みは
影響しないはずですが・・・、と理屈をこねていても問題は解決
しません、すなわちご依頼主の要望に応えることができません。
ここまでの成果をいったん放棄し、新しい材料を用意してもう
一度キャプスタンを作り直します。面倒でも少し削ってはターン
テーブルを回転させて回転数を計測する、この手順を延々と繰り
返すことにします。1個だけ完成すれば良いので、頑張ります

ステレオの復活 いわき市へ1

ステレオの復活 いわき市へ3

 
守谷工房のリペア5へ                守谷工房Topへ