何度も削り直しを繰り返し、実測上(ほぼ)正確に回転する
キャプスタンがようやく完成しました。もし、ご依頼主の方で
脱着が可能であれば、キャプスタンだけを送ってもらい、
50Hz用をお送りすることができたかも知れません。遠路を
往復しなくて済んだでしょう。折角プレーヤー部をお預かり
しているので、お返しに伺う前に全体の動作を確認しておき
ます。プレーヤーを水平に保持してレコードをかけてみると・・
ステレオの復活 いわき市へ1
ステレオの復活 いわき市へ2
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当時としては最高級のフルオートプレーヤーですが、
レコードを最後まで演奏し終わらないうちに、
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途中でアームが持ち上がり停止の
シーケンスに入ってしまいます。
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数曲目から演奏しようと手でアームを移動させても
途中で勝手にリターンの動作に入ってしまいます。
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フルオートプレーヤーと言っても完全機械式の
装置なので、どこか設定・調整が狂ったのでしょう。
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プレーヤーを逆さに設置し、裏側の機構を点検することにします。
フルート全ての機能を、モーターとギヤとカムとアームとスイッチ、
完全に「あなろぐ」で実現しています。トーンアーム直下にある
このブロックに、フルオートのほぼ全機能が集約されており、
おそらく設定・調整が必要なのはこの中のどこかです。本音は
50Hz用キャプスタンの製作よりもかない「厄介」そうです。
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キャプスタンを回転させ、ゴムベルトを介して
ターンテーブルを回転させる同期電動機です。
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操作レバー直下のリンクによりリードスイッチが
ONとなり、モーターに最初の電源が入ります。
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フルオート機構部は樹脂製カバーで
覆われています。固定ネジを外します。
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カバーを取り除きます。50年の
時を経て内部が露出します。
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これだけの部品数が集まり、それぞれが独特の形状で
機能も様々かつ複雑です。何度も何度も動作させ飽きる
ほど眺めていると、少しずつ部品の役割が見えてきます。
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まず怪しいと睨んだのが、サーボモーターと
トーンアーム駆動軸を連結するリンクです。
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両端ともスナップリングが
嵌められ固定されています。
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スナップリングの下に
樹脂ワッシャが1枚。
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リンクを外すとシャフトに金属製リングが残ります。
リンクの穴とシャフト径を合わせるスペーサーのようです。
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ところがリングが入っていても両者の隙間は埋まらず、
摩耗により広がったのか、何か別の部品が入っていたの
かも知れません。ここで生じる大きなガタのため、それも
リンクの両端に生じるので、リンクが正常に機能しません。
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アクリル材をカットして、隙間を
埋めるワッシャを作ります。
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元のリングは使わ
ないことにします。
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隙間やガタを解消し、かつ
回転を妨げないサイズです。
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ガタが解消し滑らかに動作するようになりましたが、
トーンアームの異常動作はまだ解決しません。
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サーボモーターの回転・停止位置の
制御が上手く機能していないようです。
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クランク軸を180度反対側の
位置に回転移動させます。
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シャフト部分にあるクランク
軸の固定ネジを緩めます。
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クランク軸(円盤)を引き抜くと、その下にロータリー
スイッチを構成するプリント基板が現れます。
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引き抜いた円盤の裏面には、ロータリースイッチ基板に
接触するブラシが飛び出ています。回転しながらブラシが
スイッチ面をなぞることで、通電をON・OFFする仕組みです。
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トーンアームのリターン位置が手前にずれている、
つまりスイッチの位置関係に問題があります。
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試行錯誤の末スイッチのパターンを解析し、その
一部を欠き取ることで動作位置を調整します。
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簡単に説明してきましたが、ロータリースイッチの調整には
膨大な時間を費やし悪戦苦闘しました。周辺のカムやレバーの
位置関係も微妙に影響し、本来ならばプレーヤー部のサービス
マニュアルが不可欠な調整作業です。それでも最終的に各部
とも正常に動作するようになり、切りの良いところで修理品を
納めに出かけます。再び訪れたいわき市末続は快晴、かつて
津波が押し寄せた海岸も、穏やかな波が美しい限りです。
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数週間前にプレーヤー部が取り出された
まま、パイオニアF-800が待っています。
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まず、応急的に短絡させておいた
出力段のヒューズを戻します。
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工房から持参した1Aヒューズを
ホルダーに差し入れます。
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ご依頼主にヒューズの取り付け位置を
説明し、予備ヒューズを置いていきます。
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カフェに帰ってきたプレーヤーです。デリケートな機械部品の
集まりなので、輸送中の振動などで再び不具合が生じかね
ません。緩衝材を何枚も入れて厳重に梱包し運んできました。
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センターキャビネットの上部
ボックス内にプレーヤーを収めます。
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内部のスプリングダンパーを
介し2か所でネジ固定します。
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レシーバー背面のアウトレットに
AC電源プラグを差し込みます。
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出力のRCAプラグを差し込みます。4チャンネル対応
レシーバーですが2チャンネルしか使用しません。
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ゴムマットを置いて
取り付け完了です。
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フルオート対応の操作レバーです。
調整した通りに動作すると良いのですが。
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33.3回転でLPレコードを演奏してみます。レバーを1回
操作するだけで、レコード盤外周の無音域にヘッドが移動、
スタイラスを傷めないようゆっくりかつ正確に下りて盤面に
接触させます。内周の無音域に達すると、自動的リターン
動作に移り、ヘッドが持ち上がりアームが元の位置に戻り
ます。演奏途中での中断操作も正常に動作します。
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回転数を45回転に切り替え、レコードのサイズを
変更(ドーナツ盤)して動作確認してみます。
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いずれの設定でも正常に動作しています。
あの複雑な機構が巧妙に機能しています。
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肝心の回転数は、もちろん工房で何度も確認した通り
十分に正確です。ご依頼主が愛聴してきたアルバムを
何枚か演奏してもらいます。S&Gが1981年にNY
セントラルパークで開催した再編コンサート、そのライブ
録音盤がカフェ内に流れます。懐かしさが溢れます。
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プレーヤーは快調そのものです。レコード溝をトレースする
ことでスクラッチノイズ始め様々な雑音が入り混じります。
ですが、これがレコード盤+プレーヤーの音なのです。
スタイラスがかなり古くなっているものの、CDやデジタル
音源では味わうことのできない贅沢なサウンドです。
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遠くいわき市まで出かけてきた甲斐があり
ました。帰りがけに周辺をプチ観光します。
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JR常磐線「末続」駅の近くに、当時咲き
始めの桜を背にした石碑を見つけました。
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初めて被災地に赴きましたが、震災後13年を経て既に
被害の痕跡は消滅しつつあります。同じ3月でもこの日は
天気も風景も柔らかく穏やかです。石碑に刻まれた教訓を
何度も読み返すと、13年前の恐ろしい日が想起されます。
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海岸までは足が向きませんでした、そこまで怖かったわけでは
ありませんが。50年前のステレオの修理、S&Gの懐かしい
サウンド、津波に襲われた町・・を巡らせながら、帰路に就きます。
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F-800の貴重な回路図をPDF化しました。
クリックで拡大・ダウンロードできます。
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製品の規格(仕様書)です。
4チャンネル出力時で36Wです。
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ブロック図
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チューナーユニット
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ヘッドアンプ・マイクアンプユニット
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メインアンプユニット
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Qユニット(4チャンネルマトリックス)
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4チャンネル音量コントロール
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ステレオの復活 いわき市へ1
ステレオの復活 いわき市へ2
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