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ステレオの復活 いわき市へ3(2024.5.30)


何度も削り直しを繰り返し、実測上(ほぼ)正確に回転する
キャプスタンがようやく完成しました。もし、ご依頼主の方で
脱着が可能であれば、キャプスタンだけを送ってもらい、
50Hz用をお送りすることができたかも知れません。遠路を
往復しなくて済んだでしょう。折角プレーヤー部をお預かり
しているので、お返しに伺う前に全体の動作を確認しておき
ます。プレーヤーを水平に保持してレコードをかけてみると・・

ステレオの復活 いわき市へ1

ステレオの復活 いわき市へ2

 

当時としては最高級のフルオートプレーヤーですが、
レコードを最後まで演奏し終わらないうちに、

 

途中でアームが持ち上がり停止の
シーケンスに入ってしまいます。
 

数曲目から演奏しようと手でアームを移動させても
途中で勝手にリターンの動作に入ってしまいます。

 

フルオートプレーヤーと言っても完全機械式の
装置なので、どこか設定・調整が狂ったのでしょう。
 

プレーヤーを逆さに設置し、裏側の機構を点検することにします。
フルート全ての機能を、モーターとギヤとカムとアームとスイッチ、
完全に「あなろぐ」で実現しています。トーンアーム直下にある
このブロックに、フルオートのほぼ全機能が集約されており、
おそらく設定・調整が必要なのはこの中のどこかです。本音は
50Hz用キャプスタンの製作よりもかない「厄介」そうです。

 

キャプスタンを回転させ、ゴムベルトを介して
ターンテーブルを回転させる同期電動機です。

 

操作レバー直下のリンクによりリードスイッチが
ONとなり、モーターに最初の電源が入ります。
 

フルオート機構部は樹脂製カバーで
覆われています。固定ネジを外します。

 

カバーを取り除きます。50年の
時を経て内部が露出します。
 

これだけの部品数が集まり、それぞれが独特の形状で
機能も様々かつ複雑です。何度も何度も動作させ飽きる
ほど眺めていると、少しずつ部品の役割が見えてきます。
 

まず怪しいと睨んだのが、サーボモーターと
トーンアーム駆動軸を連結するリンクです。
 

両端ともスナップリングが
嵌められ固定されています。
 

スナップリングの下に
樹脂ワッシャが1枚。
 

リンクを外すとシャフトに金属製リングが残ります。
リンクの穴とシャフト径を合わせるスペーサーのようです。
 

ところがリングが入っていても両者の隙間は埋まらず、
摩耗により広がったのか、何か別の部品が入っていたの
かも知れません。ここで生じる大きなガタのため、それも
リンクの両端に生じるので、リンクが正常に機能しません。
 

アクリル材をカットして、隙間を
埋めるワッシャを作ります。
 

元のリングは使わ
ないことにします。
 

隙間やガタを解消し、かつ
回転を妨げないサイズです。
 

ガタが解消し滑らかに動作するようになりましたが、
トーンアームの異常動作はまだ解決しません。
 

サーボモーターの回転・停止位置の
制御が上手く機能していないようです。

 

クランク軸を180度反対側の
位置に回転移動させます。
 

シャフト部分にあるクランク
軸の固定ネジを緩めます。

 

クランク軸(円盤)を引き抜くと、その下にロータリー
スイッチを構成するプリント基板が現れます。
 

引き抜いた円盤の裏面には、ロータリースイッチ基板に
接触するブラシが飛び出ています。回転しながらブラシが
スイッチ面をなぞることで、通電をON・OFFする仕組みです。

 

トーンアームのリターン位置が手前にずれている、
つまりスイッチの位置関係に問題があります。

 

試行錯誤の末スイッチのパターンを解析し、その
一部を欠き取ることで動作位置を調整します。
 

簡単に説明してきましたが、ロータリースイッチの調整には
膨大な時間を費やし悪戦苦闘しました。周辺のカムやレバーの
位置関係も微妙に影響し、本来ならばプレーヤー部のサービス
マニュアルが不可欠な調整作業です。それでも最終的に各部
とも正常に動作するようになり、切りの良いところで修理品を
納めに出かけます。再び訪れたいわき市末続は快晴、かつて
津波が押し寄せた海岸も、穏やかな波が美しい限りです。

 

数週間前にプレーヤー部が取り出された
まま、パイオニアF-800が待っています。

 

まず、応急的に短絡させておいた
出力段のヒューズを戻します。
 

工房から持参した1Aヒューズを
ホルダーに差し入れます。

 

ご依頼主にヒューズの取り付け位置を
説明し、予備ヒューズを置いていきます。
 

カフェに帰ってきたプレーヤーです。デリケートな機械部品の
集まりなので、輸送中の振動などで再び不具合が生じかね
ません。緩衝材を何枚も入れて厳重に梱包し運んできました。

 

センターキャビネットの上部
ボックス内にプレーヤーを収めます。

 

内部のスプリングダンパーを
介し2か所でネジ固定します。
 

レシーバー背面のアウトレットに
AC電源プラグを差し込みます。

 

出力のRCAプラグを差し込みます。4チャンネル対応
レシーバーですが2チャンネルしか使用しません。
 

ゴムマットを置いて
取り付け完了です。

 

フルオート対応の操作レバーです。
調整した通りに動作すると良いのですが。
 

33.3回転でLPレコードを演奏してみます。レバーを1回
操作するだけで、レコード盤外周の無音域にヘッドが移動、
スタイラスを傷めないようゆっくりかつ正確に下りて盤面に
接触させます。内周の無音域に達すると、自動的リターン
動作に移り、ヘッドが持ち上がりアームが元の位置に戻り
ます。演奏途中での中断操作も正常に動作します。

 

回転数を45回転に切り替え、レコードのサイズを
変更(ドーナツ盤)して動作確認してみます。

 

いずれの設定でも正常に動作しています。
あの複雑な機構が巧妙に機能しています。
 

肝心の回転数は、もちろん工房で何度も確認した通り
十分に正確です。ご依頼主が愛聴してきたアルバムを
何枚か演奏してもらいます。S&Gが1981年にNY
セントラルパークで開催した再編コンサート、そのライブ
録音盤がカフェ内に流れます。懐かしさが溢れます。

 

プレーヤーは快調そのものです。レコード溝をトレースする
ことでスクラッチノイズ始め様々な雑音が入り混じります。
ですが、これがレコード盤+プレーヤーの音なのです。
スタイラスがかなり古くなっているものの、CDやデジタル
音源では味わうことのできない贅沢なサウンドです。

 

遠くいわき市まで出かけてきた甲斐があり
ました。帰りがけに周辺をプチ観光します。

 

JR常磐線「末続」駅の近くに、当時咲き
始めの桜を背にした石碑を見つけました。
 

初めて被災地に赴きましたが、震災後13年を経て既に
被害の痕跡は消滅しつつあります。同じ3月でもこの日は
天気も風景も柔らかく穏やかです。石碑に刻まれた教訓を
何度も読み返すと、13年前の恐ろしい日が想起されます。

 

海岸までは足が向きませんでした、そこまで怖かったわけでは
ありませんが。50年前のステレオの修理、S&Gの懐かしい
サウンド、津波に襲われた町・・を巡らせながら、帰路に就きます。

 

F-800の貴重な回路図をPDF化しました。
クリックで拡大・ダウンロードできます。

 

製品の規格(仕様書)です。
4チャンネル出力時で36Wです。

 

ブロック図
 

チューナーユニット
 

ヘッドアンプ・マイクアンプユニット
 

メインアンプユニット
 

Qユニット(4チャンネルマトリックス)

 

4チャンネル音量コントロール

 
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